【茨城発+提言】 進む保険未加入業者の排除/求められる意識改革
2017/01/24建設時事
建設メール
少子高齢化により若年入職者が減少し、担い手不足、技能・技術継承が懸念されている建設業。若者に選ばれる魅力ある産業となるためには、技能労働者の処遇改善が絶対条件となる。その一環として社会保険等への加入は必須だ。国土交通省は直轄工事における社会保険未加入業者の排除を2017年度から2次下請以下まで広げる方針。県は、17・18年度の入札参加資格審査から建設工事における全者に対し加入を義務化する。排除に向けた取り組みは県内市町村にも広がるが、発注者だけの規制だけでは何も変わらない。元請け、下請け関係なく、業界全体の意識改革が求められる。保険等加入義務化の取り組み状況を追った。
国交省は、直轄工事の1次下請業者を対象に行っている現行の未加入企業を排除する取り組みについて、加入に際しての負担も考慮しながら、2次以下の下請け企業まで対象を拡大する。2月ごろに最終案を公表し、4月から施行する考え。
県では、17・18年度における県建設工事請負業者の入札参加資格格付け基準において、建設工事における全者に対し社会保険等の加入を義務化。また18年4月1日以降に入札公告などを行う工事においては、元請業者が社会保険等未加入業者と1次下請け契約を締結することを禁止する。
県内市町村では、26市町村が17・18年度の建設工事における入札参加申請定期受け付けから、社会保険等の加入を要件化した。県、市町村とも社会保険等の加入を要件化していなかった前回の15・16年度参加申請時に比べると、大きく歩みを進めた印象だ。
入札参加申請で要件化しなかった18の市町村のうち、今回は追加受け付けのため導入を見送ったつくば市と桜川市は、いずれも次回の定期受け付けでは要件化する方針。また「周知期間が短かったため今回は見送った。次回は導入したい」と話す自治体もあった。
一方で「業者の絶対数が少ない上、中小企業が多くの割合を占めているので、社会保険未加入の業者を排除してしまうと、競争性確保や工事発注が遅れてしまう可能性がある」「検討はしたが、積極的には…。次回以降も近隣市町村の状況を見ながら」という消極的な声も聞こえてきた。
主に下請けを行う建設業者からは「高くて払えない。入りたくても入れない」「社会保険に入れと言われても、単価が上がらなければ、どうにもならない」との意見もある。中小建設業者には依然として「法定福利費の確保」という問題が大きく立ちはだかっているようだ。
国交省は、13年度の公共工事設計労務単価設定から、法定福利費相当額を反映。労働者全員が保険に加入しているという前提での単価とすることで、保険加入の徹底を図っている。また、立入検査や社会保険加入に関する下請指導ガイドライン改定により法定福利費が内訳明示された標準見積書の活用を再下請負も含めて徹底するよう促している。しかしながら国交省の「建設業フォローアップ相談ダイヤル」には昨年、下請業者から「上請業者に標準見積書を提出したところ、金額交渉の場で材料費等でほぼ同額の値引きをするように言われた」との相談が寄せられるなど、取り組みが浸透しているとは言い難い。発注者側が制度により保険加入等を義務化しても、受注者側が変わらなければ意味がない。
下請指導ガイドラインでは、元請企業に対して遅くとも17年度以降、保険未加入の作業員について「特段の理由」がない限り現場入場を認めない取扱いとするよう求めている。昨年明確になった「特段の理由」では①現場入場時に60歳以上で厚生年金保険に未加入②伝統建築の修繕など工事の施工に必要な特殊技能を有する場合③社会保険への加入手続き中―に限定するべきとした。これに該当しない場合は現場入場が制限されることになる。社会保険等未加入対策の目標年次が過ぎる4月以降も対策が終わるのではなく、追加的な対策の実施を引き続き検討する見通しだ。
標準見積書の活用が当然となり、下請業者まで法定福利費が適切に確保され、設計労務単価と現場の賃金実態の乖離が解消されることが、社会保険加入の促進、ひいては技能労働者の就労環境改善、建設業の魅力につながるのではないだろうか。受発注者、元請け、下請け関係なく、業界全体での取り組みの徹底が求められる。