〈建設論説〉 後継者なくして企業の存続なし
2017/02/28記者の目/論説
建設メール
国土交通省が設置した建設産業政策会議のワーキンググループにおいて、10年後の地域建設業の目指すべき姿の検討が始まった。なぜ今なのか。それは10年ほど前には検討できるような環境になかったからであり、公共事業費の下落に歯止めが掛かり、民間建設投資が好調な今だからこそ将来を見据えた検討が必要ということに他ならない。
地方の中小・小規模建設企業が抱える経営上の課題として、近年は人手不足、とりわけ将来の担い手不足や後継者問題という新たな課題の比重が高まっている。国交省の建設業構造実態調査でも小規模な建設業者ほど後継者問題を課題に挙げる割合が高いことが明らかになっており、工事量や利益率が一昔前に比べて改善傾向にある一方で、今後の会社の行く末に頭を悩ませている経営者は多い。特に地方では企業を存続させるための円滑な事業承継が進まなければ、地域によっては深刻な建設業者不足に陥ることは確実であり、早急に対策を講じなければ取り返しのつかないことになりかねない。
好調な建設投資に支えられて、近年では建設企業の倒産件数が一貫して減少している一方、企業の休廃業・解散については足元では増加傾向にある。帝国データバンクが公表している全国企業倒産集計では、2015年に1612件あった建設企業の倒産件数は16年には1594件に減少したが、同社の全国「休廃業・解散」動向調査によると、15年の7640件が16年には8230件へと増加している。つまり倒産よりも休廃業・解散を選択する企業の方が圧倒的に多いのが現状だ。
東北地方の県幹部は「休廃業が増えている傾向にあり、小規模な会社ほど店を畳んでいる」との現状を明かす。また、建設企業の顧客が多い中小企業診断士は「ここ1、2年で休廃業が増えている。これまで借り入れがあって辞めたくても辞められなかった企業の経営環境が変わり、利益が出るようになったため辞められる環境に変わったのではないか」と指摘する。受注環境が改善された結果、周囲に多大な迷惑を掛ける倒産ではなく休廃業を選択する例が相当あるというのは皮肉な話である。
中小建設会社にとって合併は資金や手続きの面が障害となり、結果として廃業を行わざるを得ない場合も多い。国交省では中小建設会社の事業承継が困難で廃業せざるを得ない場合に、技術者等を引き継いだ会社に対する経営事項審査上の特例措置などを検討している。企業がやむを得ず倒産・廃業した場合でも技術者・技能労働者という貴重な人材が行き場を失なわず、他産業へ流れていかないような、しっかりとした受け皿を用意しなければなるまい。
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企業が存続するためには後継者の育成が必要不可欠。ただ受注産業である建設業の場合は企業の自助努力に限界があることも事実で、ある程度は政策で誘導することが必要となる。経営者が高齢化する中、事業承継をいかに円滑に行えるかが大きな課題。親族など後継者はいるものの、別の業種への就職や公務員になることを促し、自分の子どもには会社を継がせないという話はよく聞くが、将来も安定した事業量確保が見通せるのであれば、会社を継いでほしいというのが本音であろう。そのためにも今後、確実に需要が高まる社会資本の維持管理・更新で必要な事業量を将来にわたって確保する一方で、地域に根差した企業が生き残るための事業や方策を別途考える必要がある。
地方の中小・小規模建設企業が単独で行えることは限られている。各企業の守り手が「地域の守り手」にもなることを、あらためて認識した上で、地元の自治体と業界、住民などが一体となって真剣に地域の将来を考え、知恵を出し合えば、地域独自でできる取り組みがきっと生まれるはずだ。