〈建設論説〉 安易な「くじ引き」即刻止めよ
2017/03/06記者の目/論説
建設メール
新潟県新潟市で2016年度上半期に執行された工事入札における、くじ引き発生率が80・56%となり、前年同期比で15%近く上昇したことが明らかになった。総合評価方式と随意契約を除く396件の入札のうち319件で、くじ引きにより落札者が決定し、312件は最低制限価格と同額だった。13年度から15年度までの3カ年では平均600件前後のくじ件数で推移し、完全に常態化してしまっている。新潟市では以前から、くじ引きの発生率が高く、「宝くじ」と称されていたとはいえ、明らかに異常である。
新潟市に限らず全国の地方自治体が発注する工事および業務の入札において、くじ引きにより落札者が決定する事例が後を絶たない。受注者側の積算精度が上がり、発注者側も積算資料の情報公開を進めた結果として発生した副次的な効果ではあるが、もはや予定価格の公表時期の事前・事後に関係なく、実質的な指値受注が横行している。「宝くじ」は買わなければ当たらないのと同じで、入札に参加しなければ落札はできない。「他社が最低制限価格で札を入れると分かっている以上、同調せざるを得ない」(地方建設業者)との言葉に代表されるように、くじ引きになることを前提に入札に参加する。この状況を果たして健全と言えるのだろうか。
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地方自治体の発注工事で、くじ引きにより落札者が決まる傾向が多いことについて国土交通省のある幹部は落札者が「運」で決まる状況は好ましくないとしつつも、「自治体は、くじ引きが悪いとは思っていないはず」と話す。なぜか。正当な手段だからだ。地方自治法施行令第167条の9の規定では「落札となるべき同価の入札をした者が二人以上あるときは、契約担当官等は、直に、当該入札者にくじを引かせて落札者を定めなければならない」とされている。最近のくじ引きは電子化され、恣意的な要素が入らない仕組みになっているため、くじ引き自体は公平に行われている。発注者にすれば法令違反ではなく、税金の無駄使いもしていない、不調にもなっていないという理由が成り立つ。だから、くじ引きは止めないだろうとみている。
最低制限価格は文字どおり成果物を納めるために最低限必要な予算を定めた価格。額面どおりに受け取るならば赤字にはならないのだろう。だが利益は出ない。利益を生み出すために生産性向上を図ったとしても、ほとんど意味がなく、実際には下請けや資材納入業者に泣いてもらわなければならない。また、仮に設計変更が必要になった場合、きちんと追加費用について変更契約をしてもらえるのだろうか。担当者が設計変更に応じず、受注者が泣き寝入りをしているという声が多い中、甚だ疑問である。それは最低制限価格以下の赤字で仕事をやれと命じていることに他ならない。
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地域の安全・安心を守る上で地域建設業は欠かせない存在。そのために担い手を確保・育成し、技術と経営に優れた企業に生き残ってもらいたいと、多くの地方自治体は思っているはず。本当にその気持ちがあるのであれば、運任せのくじ引きが横行する現在の入札契約制度は即刻止めるべきだ。夢を持って建設業界に入ってきた若者が、毎回毎回くじ引きで決まった最低制限価格で受注した工事や業務にやりがいを見出せるはずもない。発注者は建設業界に興味を持つ小中学生に対して、この現状を胸を張って説明できるのだろうか。
改正品確法により発注者には適正利潤の確保を可能とするための予定価格の設定が求められるようになった。設定した予定価格に自信があるならば、最低制限価格に応札が集中する入札に疑問を持つのが当たり前。大半が最低制限価格と同額であれば、予定価格が適正であったかどうかを証明することもできないからだ。行き過ぎた価格競争を是正するため、改正品確法によって発注者は事業の特性に応じて多様な入札契約方式を導入・活用することが可能になった。地域の建設業者がくじ引き競争で疲弊し、本当にいなくなってしまう前に、今こそあらゆる入札契約方式を試してみるべきだ。「最低制限価格と同額のため、くじで決定」という入札結果はもう見たくない。