言うに言えない本音、隠れた問題① 杭工事問題で広がる波紋-重層下請構造の改善を
2015/12/01特集企画/PR
建設メール
旭化成建材による基礎杭工事データ不正流用問題は、11月末までに同社を含むコンクリートパイル建設技術協会の会員企業7社で同様の不正が発覚したことで、さらなる波紋が広がっている。データ流用が判明した会社の社長は「本当に驚いた。普通は誇りを持って仕事をしているはずだが」と驚きを隠せない。
現時点でデータの不正流用があった建築物で安全性に問題があるとされたのは横浜市都筑区で傾斜が発覚したマンションのみ。データが流用された物件では、杭が支持層へ到達しているかを調査する安全性の確認作業が現在も続いており、早期の安全宣言が待たれる。
ただ多くの担当者は書類上の不備を隠すためにデータを流用したことは認めながら、元請けからの指示は否定しているという。ある杭工事会社幹部は「データが取れなかった時の手法を徹底してこなかった責任もある」と話すが、杭工事の期間だけ下請会社からの出向という形で契約社員や派遣社員になる特殊な雇用形態が管理の甘さにつながった可能性は否定できない。杭工事に携わった担当者の所在が分からないことも大きな問題だ。あらためて適切な管理体制のあり方が問われている。
元請け、下請けはそれぞれの立場で責任を持って役割分担している。今回の問題は一個人の倫理観の欠如が原因ではないことが明らかになった今、根底にある本当の問題の解決につながるような再発防止策を期待したい。
国土交通省が設置した対策委員会の深尾精一委員長(首都大学東京名誉教授)は「建設業に携わる方々が今後どのような仕組みにすべきかを真剣に考えて、新たな仕組みを構築していくことが最も大切」と指摘する。
耐震強度偽装事件から10年が経過した今年は、免震ゴム装置の不正、落橋防止装置の溶接不良問題といった建設産業の信頼性を大きく揺るがす問題が相次いでいる。だが「ピンチはチャンス」でもある。建設産業に携わる全ての関係者が一丸となり、信頼回復を目指して体質改善に取り組み、長年の懸案であった重層下請構造の改善に道筋が付けば、明るい未来が見えてくるはずだ。