〈建設論説〉 技能者の社員化へ試される本気度
2017/09/29記者の目/論説
建設メール
現場で働く建設技能者を企業が直接雇用して社員化し、月給制に移行する動きが今後加速しそうだ。日給月給制が多い建設技能者を社員化することは簡単ではないが、働き方改革の実現に向けて日本建設業連合会(日建連)が、より積極的に支援する姿勢を打ち出したことで現実味を帯びてきた。建設産業専門団体連合会の才賀清二郎会長も週休2日制の実現には「直用し、月給制にしなければ難しい」と訴え、会員団体に対して月給制への移行を働き掛ける考えを示している。
建設技能者の職種は多種多様であり、全てを社員化することは現実的には難しい。社員化や月給制を望まない職人も多い。ただ古くて新しい課題である建設技能者の社員化は、働き方改革の追い風が吹いている今が絶好の機会であり、発注者を含めた建設業界全体の本気度が試されている。
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日建連がまとめた「週休二日実現行動計画試案」では、優良協力会社への支援として社員化、月給制への移行支援を打ち出した。日建連の会員企業は下請企業が取り組む正社員としての直接雇用や多能工化等を積極的に支援することに加えて、「社員化や月給制への移行に消極的な下請会社に対しては、なるべく下請発注を見送る」と、従来よりも一歩踏み込んだ表現を使っている。
建設技能者を社員化する上で最大の課題は仕事量の安定で、繁閑の差を無くすことが必要不可欠だ。将来の安定した受注が見込めなければ、経営者も社員化による直接雇用には踏み出せない。また、技能者側も月給制による収入低下を懸念する場合が多く、一筋縄ではいかないことは、これまで社員化が進まなかった現実が物語っている。当然ながら下請契約に際して指値が横行しているようでは、適正な賃金確保には程遠い。専門工事業団体の幹部も「安ければいいという発注では月給制などできない」と強調する。企業努力により社員化を図ろうとする前向きな企業の足を引っ張るようなことがあってはならない。
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日建連は2014年4月、建設労働者の賃金について「20代で約450万円、40代で約600万円を目指す」とする目標を掲げた。ところが厚生労働省が公表した16年度の建設技能者の平均賃金が4年ぶりに前年比で減少した。直近の決算で過去最高益を達成する会員企業が多い中、建設技能者の賃金が伸びていない状況を看過することは、日建連にとっても「本気度を疑われかねない」ため、危機感を示している。
建設業は技能者がいなければ成り立たない産業である。つまり技能者の社員化をはじめとする処遇改善が進まなければ働き方改革が実現したことにはならない。日建連は、たとえ日給月給の技能者であっても総収入を減らさないことを行動計画の基本方針に掲げた。全国建設業協会も「働き方改革行動憲章」で、下請契約等の締結に際し下請企業などの労働環境の改善にも元請企業として責任ある対応を行うことを盛り込んだ。元請企業は従来にも増して改革に本腰を入れている。
元請企業が計画通りに取り組みを行うのであれば、発注者と下請企業も歩調を合わせる必要がある。元請企業は工事を適正に受注し、適正な価格と工期で下請契約を行う。発注者、とりわけ民間工事発注者は公共工事と同水準の単価と法定福利費を盛り込んだ適正な価格で工事を発注する。下請企業は技能者に対して月給制に移行する意義を粘り強く説明し、理解を求める。建設業界が、この好循環を継続できた先に技能者の社員化と月給制移行の道が開けるはずだ。