〈壁耳〉 適正な賃金水準確保は道半ば
2016/02/19記者の目/論説
建設メール
記者 公共工事設計労務単価の引き上げに伴い、国土交通省が業界団体に対して適正な賃金水準の確保を要請しましたね。
デスク 確かに要請は行ったが、年を追うごとに伝え方が弱くなっている印象を受けた。かつては大臣が業界団体のトップへ直接要請していた。昨年は建設産業活性化会議の冒頭、副大臣が「一層の配慮を強くお願い」した。今回は建設産業の担い手確保・育成に関する意見交換会の最後に、政務官が「(単価引き上げの影響が)下請け、孫請けまで浸透するような状況づくり」を要請した程度だった。業界団体向けには何回も要請文書を出しているから、あくまでも「パフォーマンス」ではあるが、テレビカメラも入っている場では、もう少し強い口調で要請しても良かったのではないかと思う。
記者 業界団体側からは、どのような意見が出たのですか。
デスク 労務単価の引き上げが続いたことで直轄工事では赤字工事が減り、企業の利益額が向上していると評価する声があった。ただし、これは直轄工事を受注できる規模の会社の話。専門工事業者を中心とする下請け業者は単価が上がったとしても利益が上がらず、これまでの赤字分の補填に回しているのが実情といった指摘もあった。また、公共工事の単価が上がっても「民間工事の単価が上がらなければ意味がない」との声も出た。
記者 公共も民間も依然として受注競争が激しいということですね。
デスク 公共工事では特に前年度比で事業量が大幅に減った地方も多く、地域間格差が広がっている。下請けに入る場合、標準見積書をきちんと提出して法定福利費を確保してもらえる例は確かに増えてきたが、下請け受注も競争がある中で単価引き上げに伴う賃金上昇を求めることは、なかなか難しいのではないか。民間工事ならば、なおさら厳しいと思う。下請け業者からすると、事業量の増加や単価のさらなる引き上げが必要ということになる。
記者 せっかく工事を受注しても赤字では意味がないですからね。
デスク 意見交換会では「最近は最後に設計変更していただけるようになったので大変ありがたく思っている」といった皮肉まじりの発言もあった。直轄工事では適切な設計変更が行われているようだが、自治体発注工事では設計変更に応じない例が多いと聞く。発注者は品確法運用指針で「適正な予定価格の設定」や「適切な設計変更」が必ず実施すべき事項に位置付けられたことを、あらためて認識するべきだろう。