〈建設論説〉 無償で地域は守れない
2017/10/31記者の目/論説
建設メール
10月に入っても季節外れの台風が日本列島を襲うなど、近年の災害は激甚化し、いつ、どこで、何が起こっても不思議ではなくなっている。
災害時に、いち早く被災現場へと駆け付ける建設業の存在価値は東日本大震災を契機に大きく変わった。日本建設業連合会と全国建設業協会が災害対策基本法に基づく指定公共機関になったことに続き、地方でも各県の建設業協会が指定地方公共機関の指定を受ける事例が増えてきた。また、建設業団体や建設企業は行政機関が災害時応援協定を締結する相手方として法律上に位置付けられ、全都道府県で災害時応援協定が締結されている。
一方で、有償で行われるべき支援活動に対して明確な規定がない場合が多いなど、災害時応援協定の不備を指摘する声が出ている。万一の災害に備えて、建設業が万全の体制で「地域の守り手」としての役割を果たせるように、協定の内容を早急に見直す必要がある。
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防災協定に基づき、建設業者は発災時には施設の応急対応工事や障害物の除去、建設資機材や技術者等の調達・あっせんを行うなど、早期復旧に向けた重要な役割を担う。
ところが建設経済研究所が都道府県、政令指定都市、中核市などを対象に行った災害時応援協定等に関するアンケート調査で、防災協定の業務に伴う請負契約締結や代金支払いに係る協定上の規定については、「ない」とする回答が約4割もあった。協定は災害時の契約条件の合意に当たり、契約書が取り交わされるまでの唯一の合意文書となるため、同研究所では「建設企業にとって契約締結や費用精算は根幹的事項であり、手続きについても協定に具体的に規定しておくべき」と指摘する。
費用負担の問題はそれだけではない。災害関連業務は有償が前提だが、被災情報の収集・報告や巡視、対象施設の点検調査・報告といった情報が主体の業務や災害予防業務は無償とするとの回答も見られた。「社会貢献の一環として無償と考える」と答えた自治体まである。無償とする場合は理由を含めて事前に明確な業務内容を決めておく必要があるはずで、「規定がないから」という逃げ道を作ってはならない。
有償とされた業務では通常の工事単価を基準に計算すると半数が回答している。ただ非常時の活動は現場の危険性や活動する時間帯を含めて通常時とは異なる場合が多い。費用への配慮が必要との指摘があるのは当然の話だが、半数近くの自治体では費用を算定する上で非常時という要素をあまり考慮していない。現状では1割にも満たないが、災害時用の単価を用いて費用を計算している自治体数を、もっと増やさなければならない。
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アンケートでは、協力要請の方法として建設業側の自主判断を定めている自治体が3割以下にとどまることも分かった。一般的に協定は自治体の要請を受けて発動するが、災害時は緊急時であり、自治体からの通信が途絶えることは十分に考えられる。そのため、行政からの要請が無くても建設業側が自ら判断して支援活動に着手できるように、あらかじめ協定で設定しておくことも重要だ。
地域の一日も早い復旧のために、「地域の守り手」として危険と隣り合わせになりながら一生懸命に貢献した結果が無償の奉仕では割に合わない。建設業は無償で地域を守ってくれる存在ではなく、自治体に代わり危険を伴う業務を行っている面があることを、あらためて認識した上で適正な費用負担を考える必要がある。