〈建設論説〉 人材支援でインフラを守れ
2018/06/29記者の目/論説
建設メール
国土交通省が2013年を「社会資本メンテナンス元年」に位置付け、さまざまな取り組みを始めてから5年が経過しようとしている。インフラの点検・診断や長寿命化計画策定など全国で取り組みが進む一方で新たな課題も浮き彫りになってきた。例えば点検・診断を実施するための外部への委託予算が不足するなど今後も点検を継続して実施するのが困難と考えている自治体が約3割も存在する。法律に基づく点検頻度で点検が実施できていない自治体もあり、施設数に対して職員数が少なく、予算も足りないという問題が横たわる。
笹子トンネルの天井板落下事故以降、各分野で点検が進んだことで適切な措置が行われ、老朽化が原因とされる損傷による重大な事故は発生していない。ただ適切な点検、補修・修繕、更新というサイクルが滞れば、再び重大事故が発生しかねない。悲劇を繰り返さないためにも施設管理者による意識改革に加え、新たな支援制度の構築が早急に求められる。
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技術の継承・育成でも課題は山積する。国交省が行ったアンケートで約半数の自治体は都道府県、市町村ともに点検・診断だけでなく、補修・修繕も含めて人材育成・確保ができていないと回答した。維持管理分野を対象とする国交省の技術者資格登録制度はあるものの、自治体では十分に活用されていない。それどころか「制度を知らなかった」「活用方法が分からない」という回答も目立つ。
自治体がインフラを維持管理・更新するための体制は様変わりし、技術者派遣など自治体業務の支援策も増えた。しかし活用は進んでいない。技術者派遣についても制度そのものやメリットが分からないとする自治体は多く、「人材不足のところに技術者が助言のために派遣されても他の業務が滞る」といった意見まで出ている。一方で「国や県が主導すれば検討したい」との声もあり、今後は制度の周知とともに、国・県からの専門職員の長期的派遣、財政的な負担が少ない技術者派遣の仕組みの検討が必要だ。
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施設を整備したところが維持管理も行うことは当然の責務だが「自治体は千差万別。少しお手伝いするだけでは駄目で、抜本的に意識を改めるしかない」と指摘する有識者もいる。予算の確保は今後の大きな問題であるが、金があっても人がいなければ意味がない。
国民の安全安心を守るインフラは施設管理者の違いで寿命に差があってはならない。今ある制度の活用はもとより、有効な新技術を積極的に試してみる必要もあるだろう。
6月18日に発生した大阪北部地震をはじめとして最近は各地で地震が頻発している。災害は待ってはくれない。