〈建設論説〉 治水対策は効果がある
2018/07/31記者の目/論説
建設メール
2014年の広島土砂災害、15年の関東・東北豪雨、北海道・東北地方に上陸した16年の台風、17年の九州北部豪雨、そして西日本を中心に発生した本年7月の「平成最悪の豪雨災害」。いずれも、これまで経験したことのない大雨に見舞われた。近年は雨の降り方が大きく変わり毎年のように激甚な水害が起こっているが、施設整備により被害を最小限に抑えることができた地域があることは意外と知られていない。
国土交通省では、施設で防ぎ切れない洪水は発生するとの考えに立ち、社会全体で洪水に備える水防災意識社会再構築の取り組みをハード・ソフト一体で進めている。すぐに成果が出るものではないとはいえ、残念ながら特に施設整備の有効性は正しく理解されていない。
一般的な報道は被害に遭った地域が中心で、被害が発生していない、あるいは少なかった地域のことはほとんど報道されない。だが、これまで積み重ねてきた治水対策の効果を正確に把握することで、真に必要な対策が見えてくるはずだ。
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昨年の九州北部豪雨では、筑後川中流の山地部で河川の氾濫に加え、土砂や流木の流出により甚大な被害が発生した。一方で同じ地域を流域に持つ沿川では上流のダムで最大流入量の99%を貯留するとともに大量の土砂、流木を止めたため、被害はほとんど生じなかった。7月の豪雨でも同時多発的に斜面崩壊や土石流等が発生しているが、広島県や愛媛県では砂防堰堤が土石流や流木を捕捉した事例が確認されている。また7月の豪雨で被災した地域の降雨量と同程度の降雨が4年前にあった広島市安佐南区では、砂防堰堤等の整備により土砂災害が発生しなかった。
他にも過去に河川改修事業等を行ったことにより、同じような雨が降っても河川の水位低減や浸水面積が減少した例が全国各地で報告されており、ダムや堤防整備による被害軽減効果は明らかだ。
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ダムは上流で洪水を貯めることにより、下流の河川整備を待つことなく計画を超える規模の洪水に対しても長い区間で被害の防止、軽減効果を発揮する。砂防堰堤は住民の目に見えない場所で整備されることもあって必要性が理解されにくく、整備の遅れも目立つが、上流で土砂や流木を食い止めてくれる。施設整備だけでなく、適切な浚渫や河川内の樹木の伐採が進んでいれば、今回のように被害が大きくならなかったという専門家の指摘もある。
「無駄な公共事業」と揶揄される事業は本当に無駄なのか。河川の堤防整備、河床掘削、ダム再生など、早急に実施する必要がある治水対策は何なのか。従来とは異なる気象現象が続く今こそ国民全体が真剣に考えるべきだ。無駄を理由に事業が中止または見直された結果、整備が遅れ、取り返しのつかない被害につながるようなことがあってはならない。