〈建設論説〉 気候変動の備えは地域から
2018/11/30記者の目/論説
建設メール
7月の豪雨や台風21号をはじめとして本年は激甚な風水害が相次いだ。大雨や台風による被害が続く近年の状況を目の当たりにすると、地球温暖化に伴う気候変動が進んでいると考えざるを得ない。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書では「気候システムの温暖化については疑う余地がない」と言及した。日本でも30年前と比較して時間雨量50㎜の大雨の発生件数が約1・4倍になるなど確実に大雨の頻度が増えている。気温上昇が最大となった場合、今世紀末の洪水発生確率は1951年から2011年の平均と比較して約4倍になるとの予測もある。
地球温暖化が進めば、これまで以上に豪雨や渇水の発生が増加し、土砂災害の激化も危惧される。今後は将来の影響に関する科学的知見に基づいた対策の着実な実施とともに、各地域でも対応策の強化に取り組まなければならない。
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7月の豪雨を受け、土木学会は豪雨の激化を前提とした事前の防災対策を徹底的に強化すべきとした抜本的な治水対策の実施を求める緊急提言を発表した。また、ある国土交通省OBは「日本では地震対策には力を入れるが、水害については、なぜか軽く見る。水害も地震と同様に社会全体で備えをしていく必要がある」と警鐘を鳴らす。
数年に一回程度だった大規模な豪雨災害の発生が、ここ数年は毎年のように起こり、今年に至っては1年間で同時多発的に、かつ何度も発生した。気候変動は将来の問題ではなく現実の課題なのだ。北海道への台風上陸が珍しくなくなったように、これまでの常識は通用しないと考える必要がある。
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6月に成立し、12月から施行される気候変動適応法では、国、地方自治体、事業者、国民が気候変動適応推進のために担うべき役割を明確化した。また地域の実情に応じた適応の推進を基本戦略の一つに据えた。気候や地理的条件など地域特性によって気候変動の影響は大きく異なるため、その特性を熟知した自治体が主体となって、実情に合った施策を展開することが重要になるからだ。
近年の災害ではインフラが適切に整備、維持管理されてきた箇所の被害は小さく、未整備または整備途上の箇所で被害が大きかった例が目立つ。事前防災の必要性は言うまでもないが、本当にどこの対策が急務なのかを知り尽くしているのは各地域のはず。地域気候変動適応計画の策定は法律で地方自治体の努力義務とされた。実効性のある計画を策定し、地域の一員である事業者や住民が一緒になって地域から対策の必要性を積極的に発信するべきだ。