【道路の点検・修繕を考える③】 新技術で効率的な点検に期待/行政セミナーから
2019/04/19特集企画/PR
建設メール
◎第二部 パネルディスカッション テーマ「道路インフラ点検の重点化・効率化を考える」
近藤和也(コーディネーター) 道路法が改正され、省令に基づき5年に1度全ての橋梁、トンネルについて近接目視を基本とする定期点検が義務付けられました。2018年度で一巡目の点検が終わり、19年度からは二巡目を迎えます。定期点検のあり方も一巡目の結果を踏まえて重点化、効率化、そしてコストの低減が求められており、まさにこれが本日のテーマになります。最初にパネリストの方々に自己紹介を兼ねこれまでの取り組みや論旨について披露してもらい、議論に入りたいと思います。
竹末直樹氏 会社では社会公共分野の政策形成やコンサルティングに長く従事しており、インフラの老朽化対策、ファシリティマネジメント、アセットマネジメント、i―Constructionなどにも取り組んでいる。最近では日本アセットマネジメント協会の理事を務め、国際規格ISO55000シリーズの作成にも携わっている。道路インフラの老朽化問題は、先進国共通の課題であり、特に日本の場合は、高度成長期に急ピッチで整備されたため、老朽化が一気に進むという特徴がある。国土の成り立ちから道路構造物の多い日本では、5年に1度の近接目視が、特に予算の少ない自治体では課題になっている。どのように効率的にやっていくのか。引き続き検討が必要なテーマだと思っている。
西川美則氏 この協議会は地方公共団体の建設行政を支援、補完する組織の連合体で設立から46年を迎え会員数は40道府県。具体的な業務は企画調査、設計積算、災害時の人材派遣、研修などを実施している。14年度から5年に1度の近接目視が義務付けられ、圧倒的に人材が不足している市町村の橋梁点検について支援している。技術委員会は理事会の付託案件について調査研究を行っているが、15年度から2年を1期とし「道路メンテナンスを支える全技協の取り組み」をテーマに調査研究し、報告書にまとめている。前期の15~16年度では施設点検の初期段階のため全般的に調査研究し、17~18年度では点検の一巡目が完了するので取り組み状況や抱えている課題、展望など二巡目に向けて参考になる報告書をまとめた。全技協の技術委員長と滋賀県技術センター理事長という立場から発言していきたい。
信太啓貴氏 08年度から13年度の途中まで当時の国道・防災課の課長補佐を5年ほどしていて、最初の3年間はメンテナンスに携わっていた。そのころはミネアポリスで落橋したり直轄管理の鋼トラス橋の部材が破綻するなど、老朽化の課題が顕在化し始めた時期。当時は点検は義務化されていなかったので、未制定となっていた道路法42条に基づく道路の維持修繕の基準政令を検討するのが仕事だった。そのあと笹子トンネルの事故を教訓に点検が義務化され、メンテナンス元年と言われたのが13年度。自治体を支援するための点検要領の策定のほか、毎年度の結果を取りまとめたメンテナンス年報を公表し、メンテナンスの重要性を国民の皆様にも分かってもらえる取り組みもしてきた。18年度で最初の定期点検が終わる。本日のテーマとなっている効率化、さらにその先の健全な施設としてしっかりと後世に残していくために、国の考えも紹介しながら議論を深めていきたい。
六郷恵哲氏 岐阜大学ではインフラメンテナンス分野の教育研究に力を入れている。話題としては3つある。1つ目は11年前に開設したME、すなわち維持管理技術者の養成講座。これまで450人以上の方がMEになっている。2つ目はインフラミュージアム。5~15m程度の大きさのトンネル、コンクリート橋、鋼橋、盛土の4つの実物構造物をキャンパス内に造って、人材育成に役立てている。3つ目は地域実装活動。地域の大学が新技術を自治体に使っていただく取り組みを行っている。その中で、各務原市が管理する600m規模の各務原大橋の定期点検を18年度に行い、この点検の事前調査にロボット技術を導入し、点検コストを削減した。効率化というのは、いかにコストを下げるかということでもある。ロボット技術のような新しい技術の導入の仕方などについて議論したい。
近藤 一巡目で見えてきた課題として、定期点検における人的、財政的なことなど、どのような課題が浮かび上がってきたのか。
信太 点検を制度化していく議論の中で予算の面、技術の面、体制の面と3つの大きな課題があった。予算については、定期点検を実施するのに当たり社会資本整備総合交付金の中で費用を確保し、自治体の要望に対応できるよう、厳しい予算の中でも重点配分してきた。技術的なことで言えば、やり方が分からないとの意見も踏まえ、定期点検要領を策定し技術的な助言として提示したが、点検が進捗する中で、もう少し工夫ができないかとの声もいただいている。また体制については、市町村における技術者不足は依然解消されていないが、都道府県の技術センターを通じ点検の地域一括発注を行うなど量にも質にも対応した措置ができてきていると思っている。橋梁で言えば全国73万橋のうち66万橋は地方が管理する橋など、まさに老朽化対策の主役は地方自治体。持続的に施設を守っていける体制が必要になる。5年に1度の点検と言っても、初めて点検を実施する自治体では5年に分けて1回点検しただけであり、2回、3回と実施してメンテナンスサイクルを回しながら適切に修繕していことで、予防保全としてトータルのコストが適正になり、長期にわたって安全に施設を管理するという世の中になっていかなければならない。
竹末 地方自治体の道路管理者の話を聞くと、この5年に1度の近接目視による点検は非常に負担だという声が多い。これはリスクをどう扱うかという問題に直結する。アセットマネジメントの目的はアセットから得られる価値を最大化することであり、その際にはコストとリスクとパフォーマンスのバランスがポイントである。イギリスでは6年に1度のサイクルで近接目視の点検をしているが、17年に構造物の種別、状態、環境などのリスクを評価し、点検間隔を6、8、10、12年の4段階に区分する基準に改めた。日本でもすぐに同じことができるかと言えば、リスクに対する考え方が国によって異なるのでそう簡単ではない。点検を効率化するには現場での工夫だけでなく、発注者から受注者へのリスクの移転を含めた契約の問題を避けて通れないのではないかと思っている。
西川 全技協は40の会員で組織されているが人員も最大280名~最小で6名となっている。市町に対する道路管理を支援している。5年間で14万8000橋の点検を行ったが、点検後の措置、記録、市町の長寿命化修繕計画の策定の支援が今後の課題になる。
六郷 一巡目の定期点検に絡めた話題としては、定期点検でのロボット技術の活用がある。当初、定期点検にロボット技術を使うことは無理であると、自治体や大学の同僚の多くが言っていた。しかし、自治体向けの定期点検要領は技術的助言であり、いろんなことができると考えた。管理者が責任をもって新しい技術を取り入れていくことが必要である。
近藤 人口減少などで生産性の向上が求められている中、適正なメンテナンスを回すには質を確保しながらも当然効率化は避けて通れない。その方策として新技術の開発・導入が重要になります。
竹末 新技術に関して言えば、インフラの維持管理のマーケットの大きさに着目して、いろいろな業種の方が参入しようとしている。新技術のシーズ側は進んできているのに、ニーズ側の議論が進んでいない。ただ技術やツールがあれば良いのではなく、せっかく開発されたものをどういう目的でどういう対象にどのように使うのかという議論が必要である。
西川 正直、現場レベルではまだ落ちてこないと言うか、コストや汎用性の面から、それほど活発に新技術を導入しているとは聞いていない。全技協では市町の職員の技術力の向上というのが大きなテーマとなっており、人材の能力を向上させ効率化を図っているというのが現状。
六郷 新しい取り組みというのは、まずやってみることが大切。たくさんやれる状況が良い。使う機会が増えればコストも下がる。各務原の例でいえば、ロボット技術を活用することで見落としが無くなり、点検する人の作業の軽減につながった。それと、大学の関与が非常に重要であることが分かった。発注者と受注者だけの場合に比べ、大学を加えた方がいろいろなことができた。ただし、SIP実装プロジェクトが本年度で終わってしまい残念だが、このようなプロジェクトがあり、その責任者がいる大学でないと難しい。
近藤 これまでを総括して国交省としての考えを。
信太 新技術は六郷先生が言う通り、使っていかなければ技術の進展もコストも安くならない。これまで目視や打音に関する技術の開発が多かったが、そろそろ抜本的に考えを変えていく時期かと思っている。例えば計測やモニタリングと近接目視をベストミックスさせ、技術に任せるのがあるのではないかというのも大きな方向性の1つ。三巡目を待たずに出来るものから積極的に取り組んでいきたい。また、このように点検のやり方を適切に組み合わせるためには、技術者の質の向上もこれからは必要になってくる。道路技術小委員会の中でも技術者の国家資格の検討が提言されている。市町村も含めて地方公共団体が管理する橋梁で判定がⅢやⅣに区分されたもののうち、修繕は3年で12%しか実施されていない。点検するだけでなく、適切に修繕していかなければ施設の機能は回復しない。今後は、修繕に力を入れていく必要がある。そのための予算の確保や体制の整備も必要となる。修繕の一括発注なども考えていかなければならない。インフラの点検・修繕は総力戦であり、重要性をあらためて再認識させられた。
近藤 インフラメンテナンスに関しては、これまでどちらかと言うとあまり日の目を見ない分野であったが、最近は国土交通省のインフラメンテナンス国民会議を中心に全国に取り組みが広がっており、今まで以上に国民の理解も深まってきている。いかに効率的にメンテナンスサイクルを回すのか。本日のセミナーがその参考の一助になることを期待している。
(連載おわり)