〈冬虫夏草〉 ▲5二銀
2019/05/08コラム
冬虫夏草
藤井聡太七段は3月、詰将棋解答選手権において5連覇となる優勝を飾った。
現在彼は16歳だが、七段で前年度勝率は0.849で断トツのトップである。
ちなみに、7冠を達成し、天才と言われている羽生善治は同じ16歳の時、勝率0.741で勝率1位だった。
また、羽生善治九段は五段時代の第38回NHK杯戦で(当時18歳)、大山康晴、加藤一二三、谷川浩司、中原誠と、当時現役の名人経験者4人をすべて破るという、勝ち上がりで優勝した。
特に、対・加藤戦では終盤61手目に加藤陣に▲5二銀と打った手は有名で、なるほどと思ってしまう手で勝っている。
自分自身は将棋が得意と言うわけではないが(どちらかと言うと下手糞)、面白い・すごいと思うことができる手であり、理解できない手ではない。
加藤一二三も▲5二銀は奨励会員でも打つことができる手であると言っている。
では何がすごいのかと言うと、流れの中で最善手を打つことができるということであろう。
プロだから、想定している手の中の一つであったろうが、逆に言うと、加藤一二三は奨励会員でも打つことができる手を見逃していたということである。
将棋の世界では、普通の手が最良手と言うのがあるそうである。素人には理解できない深い意味が込められているのであろうが、現実の世界でも同じようなことがいえる。
キッチリと仕事をこなすことは意外と難しい。
例えば、均しコンクリート。設計上で設定されていなければ、当然、行うべきではない。
しかし、現場の状況や手間の問題で、やってしまいたくなる場面もあるだろう。
真面目に平凡な作業を行うことが評価されないならば、均一的な品質は確保できない。
技術管理者はその難しさを理解しているはずであろうが、現場を離れると忘れがちになる。
低い棋力でも打つことができる手を充分に評価すべきである。