建設業の生産性を向上させるICT施工。長野県では2016年度にICT土工の適用を開始し、本年度からは建設部が発注する全ての工事を施工者希望型のICT活用工事に指定するとともに、実施を必須とし必要経費を当初設計で計上する発注者指定型も始めた。長谷川朋弘建設部長は「国土強靭化の3か年緊急対策により事業量の増加が見込めるこの好機に、各企業において取り組みを推進してほしい」と普及への強い意欲を見せる。
18年度までの実績は県の期待値を下回るものだ。昨年度に施工者希望型で発注した58件のうちICT活用工事として実施されたのは17件にとどまった。県がことし2月に実施した受注者アンケートによると回答124社中ICTを活用したことがある企業は38社で、うち35社は格付けが最上位ランク。また活用した現場の7割強は請負額8000万円以上で、今のところ大型工事を受注できる県内大手の一部が限定的に実施している状況と言える。
最たる課題は費用対効果だ。「ICT建機の購入・リース料やソフトウェアのライセンス料など全体的に費用が高額」「工事の規模や現場条件により費用対効果が大きく変わる」。中長期の受注計画が見通せない中で、高額な初期投資に見合うだけの効果を上げられるのか、多くの企業は二の足を踏んでいる。
さらに、情報化施工に踏み出した企業、躊躇する企業とも緊急対策後の事業量に不安を抱く。県建設業協会の木下修会長は「国、県ともi-Constructionの取り組みを推進し、対応すべく投資している企業もいる。緊急対策後に公共事業が削減されれば、競争が激化し経営が立ち行かなくなる企業が続出する」と危機感をあらわにする。
県は本年度、ICT技術の一部活用でも成績評定で加点するようルールを改定。20年度からICT活用工事の実績を評価する新たな総合評価落札方式を導入することも表明している。入札制度の面から次の受注につながる支援を行うことで、普及を促進したい考えだ。

新たな総合評価について県が示している案は、ICT活用工事の実績を有する技術者を配置する場合に加点し、実績の有効期間は1年間とする内容。これに対し業界からは「評価は企業に対して行うべき」「実績の有効期間が短すぎる」といった意見が出ており、技術者に対する評価が引き抜きにつながりはしないか危惧する声もある。時間と費用をかけて育てた人材が引き抜かれることは企業にとって死活問題だ。
ノウハウを有する技術者を評価し当該工事の品質を確保するという県の考えは正論。技術者を育成するために投資したのは企業という業界側の意見も理解できる。検討の時間はまだ残されている。
先のアンケートではICT活用工事のメリットとして「人員の削減」が最多を占め、「安全性の向上」がこれに続いた=表参照=。この効果をどれだけの企業が実感できるか。課題を抽出し改善するサイクルを続けるためにも、知見が蓄積できる環境の整備が不可欠だ。