未曾有の大震災から10年が経過し、東北の被災地では復旧・復興事業が一部を除き完了しようとしている。国土交通省が中心となって整備を進めてきた復興道路・復興支援道路は3月末までに93%が開通済みとなり、年内には全線開通に至る。河川堤防は復旧・復興延長の98%が完了し、2021年度内には全て完成する見通しだ。

三陸沿岸地域は内陸に比べてアクセス性が悪く、大手輸送企業の輸送拠点の空白地域だったが、三陸沿岸道路等の整備により営業所の新規立地につながった。港湾や復興道路等のインフラの集中整備によって港湾周辺や利便性が向上した地域では新規企業の立地と工場の増設が活発化し、新たな企業投資と新規雇用を生み出している。また直轄河川や仙台湾南部海岸の堤防完成により治水安全度が大きく向上したことで、新たな交流拠点やにぎわいの場の創出も進む。
東日本大震災から得られた実情と教訓を伝える震災伝承施設は2月までに271施設が登録され、統一標章となるピクトグラムを用いた道路標識を設置するなど、産学官民が連携した「3・11伝承ロード」の取り組みも各地で展開されている。
21年度から第2期復興・創生期間に入る被災地では、復興まちづくりが本格化しようとしている。しかし巨大災害からの復興には息の長い取り組みが必要だ。10年が経過して一定のハードは整ったものの、高齢化の進展を含めて社会情勢も大きく変わってきた。原子力災害被災地域の福島県では創造的復興の中核拠点となる国際教育研究拠点の整備が決まったとはいえ、廃炉・汚染水対策や帰還・移住等の促進など、課題は山積する。
東日本大震災を教訓に「強さとしなやかさ」を備えた国土、経済社会システムを平時から構築するという「国土強靱化」の概念が生まれた。21年度を初年度とする「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」では、激甚化する風水害や切迫する大規模地震等への対策に加えて、予防保全型インフラメンテナンスへの転換に向けた老朽化対策も対象に加わった。
「災害列島日本」では、いつ、どこで、どのような災害が起こっても不思議ではない。残念ながらそれが宿命でもある。未曾有の大震災に見舞われた東北地方でも、令和元年東日本台風、先月の福島県沖を震源とする地震の発生など自然災害が相次いでいる。ただ、予防保全をはじめとする事前防災対策に効果があることは、東日本大震災以降に取り組んだ各種対策が証明した。新技術の開発・導入も急速に進んでいる。今後も「想定外」を「想定外」としないための事前対策を怠ってはならない。そして、その担い手である建設産業の強靱化も欠かせない。来るべき災害に備えるため、東日本大震災から学ぶべき教訓はまだまだ多いはずだ。
(おわり)