〈連載⑤最終回〉 『激化する豪雨と戦う地域建設業』「地域の建設業が命綱」
2016/09/05特集企画/PR
建設メール
パネルディスカッションでは、「激化する豪雨と戦う地域建設業」と題し5人のパネラーが参加。豪雨災害時に地域建設業と行政が果たすべき役割について意見を交わした。パネラーは国土技術研究センター国土政策研究所の大石久和氏、農林水産省農村振興局長の佐藤速水氏、林野庁次長の沖修司氏、長崎県建設業協会会長の谷村隆三氏、佐久間建設工業(福島県)社長の佐久間源一郎氏。コーディネーターは建設トップランナー倶楽部代表幹事の米田雅子氏が務めた。
佐久間建設工業の佐久間氏は地元の奥会津を「高齢化率49・9%の典型的中山間過疎地域」と紹介。管内4市町村の公共事業減少や受注競争の激化により1998年に11社だった建設業協会宮下支部の会員数が2009年には6社に減り、980人いた従業員数が161人に減ったと報告した。
地域を守る役割を遂行するため同年、協同組合による共同受注を開始。2年後の11年7月に只見川流域を襲った新潟福島豪雨災害に際しては「協同組合一丸となって安全確保や通行止め解除など迅速な初動にあたり、地域住民に地域建設業の重要性を再認識していただいた」と話した。
昭和57年7月、33歳のとき長崎大水害に遭遇した長崎県建設業協会の谷村氏はその特徴を「河川災害」「土砂災害」「道路・都市災害」にまたがる複合災害だったと説明。「斜面地に宅地が密集していた」「斜面地開発により水路の流下スピードが速かった」「観光地石橋群の保全から河川の拡幅が困難だった」「市内に入る幹線道路が2本しかなかった」などの地域条件が被害を拡大した要因と話した。
その上で、「政治と行政は『災害に備えるシステム』を後世に残す責任がある」と指摘した。
農林水産省で土地改良行政を担当する佐藤氏は農村災害の特徴を、1カ所あたりの復旧工事規模が比較的小さいことだと指摘。「それゆえに現地で復旧活動・防災活動を行うには地域建設業者の協力が不可欠」と述べた。
熊本地震の農業関連被害は熊本だけで700億円。個所数は農地1万カ所以上、水路などの施設5000カ所以上にのぼる。「地域ごとに建設業者に協力いただかないと復旧が進められない。まさに地域建設業が『命綱』で、平時から協力関係を築いていく必要性を感じる」と話した。
林野庁の沖氏は、局地的に集中して大量に降る従来にない降雨が増えてきたことを指摘。そうした雨と地震が複合的に地域を襲うことも想定しなければならないとし、「件数は減ったが、1件あたりの災害規模は大きくなる傾向がある。昔とは違う災害に向け、新しい対応を考えていかなければならない」と述べた。
国土議事湯津研究センターの大石氏はこれらの発表を受け「厳しい自然環境で暮らしているのがこの国の姿。今後も災害からは逃れられない」と強調。人命を守るために必要なのは「日常生活のなかで災害を忘れないことだ」と述べた。
そして大石氏は「現在は堤防の改修などで洪水の頻度が減り100年に1度の大雨でないと破堤しない。しかし、そこで起こる洪水は大規模。かつ、頻度が少ないため経験・知識の伝承が難しくなっている。インフラ整備が進むにつれ、我々は『災害の日常化』を意識して暮らさないといけない」と訴えた。(地方建設専門紙の会)