〈壁耳〉 多様な入札契約の本質とは
2017/04/14記者の目/論説
建設メール
記者 国土交通省が地方自治体の発注を支援する、昨年度の多様な入札契約方式モデル事業は年度末で支援が終了しましたが、従来とは違った結果になったようですね。
デスク 当初想定していた方式から大幅に変わったという意味では面白い結果になったとは言える。例えば滋賀県野洲市の病院建設事業と高知県中土佐町の新庁舎等建設事業は、当初は設計段階から施工者が関与するECI方式とCM方式の組み合わせを想定していたが、結果的には設計・施工分離方式を採用する見通しになった。
記者 設計・施工分離方式とは要するに、ごく一般的な発注方式のことですよね。多様な入札契約方式の考えと相反するのではないですか。
デスク 確かにそうだが、各自治体が抱えている課題や置かれた状況を支援事業者が客観的に分析し、一緒に検討した結果、従来の方式でも実施できる見通しになったということ。それが分かっただけでも自治体としては助かったはず。もちろん今後、基本設計等を進める中でCM方式などが必要になれば導入することもあるだろう。
記者 他のモデル事業の支援結果はどうなったのですか。
デスク 神奈川県小田原市の市民ホール建設事業は技術提案交渉方式(設計交渉・施工タイプ)を採用する。もともと予定価格と入札金額に20億円もの開きがあった入札不調が出発点で、設計自体を白紙撤回しているから、施工者側の意向も踏まえた上で進捗に応じて価格交渉を行えるようにしたかったのではないか。もう失敗はできないと考えているはずだから。香川県高松市の給食センター建設事業では設計段階から厨房機器業者が関与する方式を取り入れる見通しになった。建屋の施工業者が決まる前に厨房機器の設置・納入業者を決めるのは極めて珍しいけれど、成功すれば先進的な事例になるかもしれない。香川県善通寺市の新庁舎建設事業は当初から支援事業を通じて最適な方式を検討することにしていた。まだ基本計画段階だったので、設計・施工分離方式+CM方式が最適と判断したようだね。
記者 設計・施工分離方式にCM方式を加える理由は何ですか。
デスク 職員の経験不足を補うことは当然ながら、事業費の管理が大きな目的だと思う。基本設計を進める際に設計業者とは別にCM業者が関与することで事業費の管理・抑制ができるようになる。また、設計・施工段階での品質確保も期待できるだろう。
記者 設計・施工分離方式も多様だということですね。
デスク これまで支援を受けた自治体からは「入札契約方式の導入プロセスが参考になった」という意見が最も多い。同じ設計・施工分離方式でも、別の方式を検討した結果としての結論であるかどうかで意味が違ってくる。住民や議会等への説明責任もあるからね。一昔前と比べて入札契約方式の選択肢が増える中、先入観にとらわれずに最適な方式を検討することが多様な入札契約の本質ではないのかな。