〈建設論説〉 女性活躍は誰のためか
2017/06/30記者の目/論説
建設メール
国土交通省が官民共同で3年前に策定した「もっと女性が活躍できる建設業行動計画」や女性活躍推進法の施行を背景に、全国で多様な取り組みが進み、建設業界でも女性活躍が目立つようになってきた。将来の担い手不足を考えれば、若者だけでなく女性の入職者を増やさなければ現場が成り立たなくなることは確実だが、先進的な取り組みを行う会社では、イメージアップや担い手を確保する以上の効果が生まれている。
女性の技術者や技能者を積極的に採用し、現場の中心で活躍している人が多い会社では、男性が女性に追い越されることを心配するといった予想外の反応が起きている。建設現場で女性が活躍するという新しい風が吹くことで、男性の技術者・技能者に対して危機感を抱かせるとともに、意識改革を促す効果が確実にあるということだ。
女性が働きやすい職場は、男女問わず働きやすい職場であることが多く、それは建設業にも当てはまる。人材を適材適所に配置して生産性を向上させる観点からも建設業で女性の活躍は当たり前になりつつある。
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昨年度の「けんせつ小町活躍推進表彰」では、営業・企画・設計・施工・販売の計画全てに女性が関わった長谷工コーポレーションのマンション建設プロジェクトが最優秀賞に輝いた。現場に従事する技術者は全員女性とし、意識改革と設備改善の両面から従来以上に作業環境を整えたほか、協力会社の女性技能者からも積極的に参画してもらうなど女性でも働きやすい作業所を目指した結果、男性の技術者・技能者からも共感や賛同の声が出たという。職長会の女性会長誕生も男性職長からの提案だった。
女性の能力の高さを指摘する声もある。女性の現場監督を増やしている大手住宅メーカーの関係者は「技術者の中から優秀な人を選ぶために女性技術者も同じ土俵に乗せる。結果として優秀な技術者は女性だったという例も多い」と話す。特に建築工事の現場では多くの女性が活躍しており、内装工事など比較的女性に向いている仕事もある。
また、土木工事の現場において女性の重機オペレーターは珍しくなくなった。現場見学会に参加した工業高校生が、先輩が働いている様子を見て憧れ、女性でも活躍できる職場であることを知り、実際に入職につながった例も表れている。建設機械の技術開発が進み、力仕事が不要な環境が整備される中、今後、女性が活躍できる場が広がることは間違いない。
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女性が敬遠しがちな「きつい・汚い・危険」という3Kの職場環境を女性が働きやすくなるように改善することは、男性も働きやすくなることにつながる。実際に女性社員の在籍率の上昇に比例して売上高・業績が順調に増加している会社も出てきた。
情報化社会の急速な進展により、建設業で働く女性たちは横のつながりを持ち始めている。他社の働き方が「見える化」されることで、良い評判も悪い評判もすぐに伝わる時代になった。仮に女性の採用に至らないまでも、働く先として女性から選んでもらえる業界や会社になるために改善すべきことは多い。それは難しいことではなく、職場をきれいにする、風通しを良くする、互いを認めて強みを生かし合う組織に変えるなど、ちょっとした工夫で、ほとんど費用を掛けずに実現している会社もある。
誰のため、何のために女性に活躍してもらうのか。女性に限らず、従業員が輝き、働きがいを感じるための仕組みづくりを、個々の経営者はあらためて考えるべきだ。