〈建設論説〉 建設産業の夢を語れますか
2017/07/31記者の目/論説
建設メール
「あなたは若い人たちに明日の建設産業をどう語りますか」。10年後の建設産業を見据えて国土交通省の建設産業政策会議がまとめた提言は、異例の問い掛けから始まる。建設産業が直面している最大の課題は担い手の確保だ。業界全体でさまざまな取り組みが行われているものの、残念ながら特効薬は無く、地道な対策が必要となる。その一つの手段が建設産業に携わる全ての人たちが、若者に対して建設産業の将来をしっかりと語ること。単純ながら難しい方法でもある。
やりがいがある、健全に経営されている、働く人を大事にするなど、語る内容は十人十色で構わない。大事なのは夢や希望に満ちた産業であるという明るい見通しが含まれていること。そして自分の言葉で語ることだ。建設産業で働く人々が真剣に産業の未来を考え、魅力を伝えることは、将来の担い手確保もさることながら、現状の環境改善にもつながることを、あらためて認識する必要がある。
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建設産業は全国大手の総合建設業から、地域の中堅・中小建設業、専門工事業、建設関連企業、建設業団体、発注者など、異なる幅広い立場の担い手による相互関係で成り立っている。
これまでは、個々の企業が中心となって担い手を確保することで雇用の受け皿としての役割を担ってきた。しかし個々の企業だけで担い手を確保できる時代は終わりを告げた。黙っていても人が入ってくる時代にはもう戻らない。それどころか黙っていれば人がどんどん減ってしまう時代になった。業界内での人材の奪い合いなど、もっての外なのだ。
今後は業界全体、企業間、異業種や地域との連携が必要になるだけでなく、労働者一人一人が胸を張って建設産業の魅力と将来性を語っていかなければ、若者を振り向かせることはできない。そして相手に伝わり、理解してもらうことが何より重要となる。それには自分が考えている本音を含めた心からの言葉が求められる。忖度(そんたく)が美徳とされる風潮から脱却しなければ新たなものは何も生まれない。
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本年度からは働き方改革が動き始めた。さらにICT技術の活用を中心とした生産性向上が進み、建設現場もこれまでとは異なる次元へと生まれ変わろうとしている。従来にも増して次世代に対して語るべき魅力は圧倒的に増えているはずだ。
若者に建設産業の未来を語る作業は自分自身への問い掛けでもある。将来を悲観するのではなく、前向きな未来を考えることで課題が見えてくる。それを声に出すことが、より良い産業に変えていくための第一歩となる。
最後にあらためて問いたい。「あなたは若い人たちに明日の建設産業をどう語りますか」と。