〈建設論説〉 背中を見ただけでは育たない
2018/05/31記者の目/論説
建設メール
少子高齢化が進む中で人材育成の在り方が大きく変わりつつある。急速に技術が進歩しICTの導入が広がる建設業界でも新たな人材育成策が求められている。専門工事業に代表される職人の世界では、これまで親方の背中を見て学ぶなど職種や企業による独自の育成が行われてきた。だが人材獲得競争が激しさを増し、建設業で働き方改革と生産性向上が大きな流れとなっている現在は、時代の変化に対応した教育方法が必要不可欠だ。
高齢者の大量離職が見込まれる建設業界では担い手の確保・育成が喫緊の課題。ただし今後も継続して技術者・技能者を確保できる保証はどこにもない。業界に入職した人材を将来の担い手に育てるためには、自ら学ぶことは当然ながら、教える立場の人間の教育方法もあらためて考える必要がある。
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人材教育が必要なのは新人だけとは限らない。例えば5月中旬から公開が始まった建設職人の技能を映像で学べる無料の「建設技能トレーニングプログラム」は建設リカレント教育(学び直し)の一環で開発されたもの。パソコンやスマートフォンがあれば時間や場所を選ばず自由に効率よく技能を学ぶことができるため、職人の学び直しや企業の新人研修など多様な利活用が想定されている。
プログラムには基礎編、職長編に加えて指導者編があることも見逃せない。これは高い技能を身に付けていても教えることができない、教え方が分からない職人が多いことを物語っている。
人が減った。しかし要求される仕事は増えるという環境下で新人教育に時間を割く余裕が無いという背景もある。また新人教育に力は入れても中堅人材の教育は全くしてこなかったという企業も多い。気が付けば上の立場になったものの、いざ教育をしようと思っても何をどうすればいいのか分からないというのが実態ではないか。
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建設業振興基金がまとめた工業高校生採用活動の取組事例集によると、採用内定者は「分からないことは教えてもらえるのか」「怖い人、厳しい人はいないか。もしいたらその中でやっていけるのか」という不安を抱えている。入社後の不安を解消するためにインターネットなどで事前に必要な情報を調べて確認するのは当たり前で、具体的なイメージをつかむために「動画があると分かりやすい」という感覚を持つ。
建設業の将来を担う人材は親方や上司の背中を見て勝手に育つ時代ではないことを強く認識し、新たな教育体系の構築に向けて業界全体で知恵を絞るべきだ。そして技術・技能を磨いた先に、満足がいく待遇が得られるという将来像を描けなければならない。