【私たちの主張②】 国土交通大臣賞「愛されるふるさとづくりのために」
2018/10/10業界動向
建設メール
◎野原愛子氏(野原組、岐阜県)
「さあ、行くぞ」
今年の冬もこの声から始まる。社長の勢い余る威勢のいい声が、従業員を一斉に降りしきる雪の中へと出動させる掛け声だ。真夜中二時、もちろん誰もが寝静まっている時間に、静かにとても静かにどんどん雪は降り積もる。早朝の早い人で朝四時過ぎには職場に向かう住民もいる事を、社長は知っている。除雪車重機と誘導車輌がこの県道春日揖斐川線を行ったり来たり道路の端ギリギリまでの雪をかき取る。その作業の出来栄えと言ったらとてもきれいで自慢できる技だ。車道どころか歩道までもきれいに除雪されている。
ここまで除雪作業が完璧なのは、この県道春日揖斐川線を会社の皆が知り尽くしている事や、何より重機の操作が上手い事、何度も除雪作業を経験している事、そして普段から作業員間のチームワークが良い事、それと、社長の優れたリーダーシップ力と、従業員との間に絆とも言えるほどの信頼関係があることは、社長の真っ直ぐな思いとそれに応える従業員との絆そのものだ。
社長の第一声の掛け声には、たった五文字の中にいろんな気持ちが入っている。「除雪作業をさあ、始めるぞ、従業員の皆、任せるぞ、頼んだぞ、住民が車を走らせる前には終わらせよう、事故の無いように作業しよう」
そのいろんな気持ちが詰め込んである掛け声である事は、従業員の皆が感じている、知っている。
我が社は、「安心、安全、愛されるふるさとづくりに貢献します」を基本理念にしている。建設工事で長期にわたるバイパス道路新設工事や橋梁の取り付け工事、台風や大雨による災害からの復旧工事、道路維持工事、民間の造成工事などあらゆる工事を手掛けている。住民から、「こんなにいい道路を造ってもらえて本当に有難い。今まで狭い道やったけど、こんなに広くなって嬉しい、ようやってくれた」「危ない所だったがこれからは安心して通れる」など言われて、こちらも今まで頑張って良かったと心から思えるときのそのやりがい感はなかなかのもので、これからも頑張ろう、いい仕事して喜ばれるものづくりをしようって思う、と若い技術者が目をきらきらさせて言っていたのを覚えている。
除雪もそうだ。毎年の年賀状を社長が楽しみにしているのは、印刷された年賀状の端っこに、ボールペンで書かれたお礼の文章で、毎年やりとりさせてもらっている年賀状の中に「いつも早朝より除雪してもらい有難うございます」と書かれている年は、社長の顔が緩む。本当に嬉しい時の顔になる。社長自らやりがいを感じている顔だ。年賀状だけではない。直接除雪の御礼の電話も頂くこともある。私まで本当に嬉しくなる。
この何とも言えない達成感とやりがいは、建設業だから感じる特殊なやりがいだと思う。
仕事のそれぞれにそのやりがいはきっとあるが、建設業だから感じるというやりがいは、他では味わえない。
私は普通高校から日赤看護学校を卒業し、めでたく自分の夢である看護婦(今でいう看護師)になる事ができ、毎日患者さんの体調観察、点滴、採血、検査介助、術後管理、救急室や手術室勤務もこなした。元気を取り戻して退院されていかれる方、命絶えて亡くなられる方、いろんな方に出会い自分のできることを仕事に注いだ。看護婦は私にとって本当にやりがいのある仕事だと思う。
そんな時、どうした縁があったのか、嫁いだ先が野原組、まさか建設業に携わるとは思ってもみなかった。さすがに看護婦とは全く別の世界だが、私の父は力仕事の建設現場作業員で私達を育ててくれたので、建設業にすんなり入れたことは幸いだった。
そして二十五年の月日が経ち、この建設業の仕事を続けていられるのは、暑い日も寒い日も、ものづくりへのやりがいを持って明るく一生懸命仕事をしている会社の皆の頑張っている姿が、私のやる気を奮い立たせるからだと思う。
社長に、建設業について一言でいうと何かという質問をしてみた。
「後世に残るものづくりの仕事」
私は、道路の新設や橋梁の取り付けを亡き先代の社長のころ、先代の社長と共に働いた今は亡き従業員の方々が汗水流して造ったこの道路や橋が脳裏に浮かんだ。そして現在手掛けている工事現場もこれからの世代の人たちが利用していくことも想像した。そして、目には見えないが、この野原組の「安心、安全、愛されるふるさとづくりに貢献します」という心、信念も後世に残っていくような気がしている。いや、後世に残していかねばならない。愛されるふるさとづくりのために。