〈建設論説〉 納期よりも安全を守れ
2018/10/31記者の目/論説
建設メール
地震による建物の揺れを小さくするはずの装置が、建物の安全性を揺るがす事態を引き起こすとは皮肉な話である。油圧機器メーカー等が国土交通大臣認定や顧客と契約した基準を満たさない免震・制振オイルダンパーを出荷していた問題が波紋を広げている。
現時点で物件名が明らかになったのは庁舎や病院などの一部に過ぎず、今後のさらなる混乱が懸念される。東京オリンピック・パラリンピック競技施設での使用や一部の製品が海外に出荷されていることもあり、日本のものづくりに対する信頼を根底から揺るがす事態に陥っている。
耐震データ偽装、免震ゴム不正、基礎杭工事問題、そして今回の免震装置不正。地震が多発し、免震・制振装置等に大きな期待が寄せられる中、なぜ最も重要であるはずの安全性をおろそかにし、不正行為が相次ぐのか。製造側のモラルが問われるだけでない。製品を設置した施工者側は手持ち工事を抱える中での対応を余儀なくされる。他の工事への影響が出ることは必至で、再開発をはじめとする全国のまちづくりや建設業界が進める働き方改革の実現にも水を差しかねない。
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今回の不正では検査データの数値のばらつきを小さくし、見栄えを良くするため基準内に収まるように数値を改ざんしていた。不正を行った企業は、いずれも目先の納期や工場の生産計画の維持を重視し、品質に対する考えを軽視していたことを認めている。
不正を働いた検査員の罪は重いが、企業側が検査を現場任せにし、適切な人員の配置や体制の確保を行わなかったことが不正の一因でもあるはず。納期優先で、基準不適合製品を分解して調整し直す手間を惜しんだ結果、安全性をないがしろにしたのであれば本末転倒だ。
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基準に適合しない免震・制振装置が設置された建物は、震度6強を超える地震が発生しても倒壊する恐れはないとされる。だが安全・安心を求めて装置を導入した顧客の信頼を裏切ったことに変わりはない。適正な装置への早急な交換は当然だが、施工業者との調整や現状の生産能力、優先順位、所有者等との合意形成など課題は山積する。
国土交通省は再発防止策等を検討する有識者委員会を設置し、11月9日から議論を始めることを決めた。対象は今回問題となった免震・制振装置だが、法令順守はもとより、建物の所有者や使用者の安全・安心を脅かすような工場製品が出荷されないための実効性ある対策が求められる。同じ様な不祥事を二度と繰り返してはならない。