〈建設論説〉後世の命も守る対策進めよ
2019/11/07記者の目/論説
10月12日に日本列島へ上陸した台風19号は、静岡県や関東甲信越、東北地方を中心とした広範囲に記録的な大雨をもたらし、各地に大きな爪痕を残した。特に河川で甚大な被害が発生し、国と都道府県管理河川を合わせて20水系71河川の140カ所で堤防の決壊が確認された。土砂災害も20都県で800件以上発生している。10月29日には大規模災害復興法における「非常災害」に指定され、国土交通省は東日本地域6カ所の道路で直轄権限代行による災害復旧事業に着手した。
これほど広い範囲で同時多発的に、また流域全体で被害が発生したのは異例であり、近年の気象状況の変化により災害が激甚化、頻発化していることに疑いの余地はない。
異次元の自然災害が相次ぐ中、従来の経験や備えが通用しなくなっている。安倍晋三首相も「命に関わる事態を想定外と片付けるわけにはいかない」とし、国家百年の大計として災害に屈しない強さとしなやかさを備えた国土づくりを進める考えを示す。一連の災害を教訓に、後世を含めて国民の命を守るために真に有効な対策を早急に実行する必要がある。
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台風19号の被害の大きさの陰に隠れたが、これまで積み重ねてきた治水対策のストック効果が発揮された点は見逃せない。過去に被災し再度災害防止対策として築堤や河道掘削等を行った箇所では、浸水被害を免れるなど河川改修事業の効果が表れた。利根川上流では、試験湛水を開始したばかりだった八ッ場ダム(群馬県)をはじめとするダム群や遊水地などで洪水を貯留したことで、越水の回避につながった。
いずれも整備には巨費を投じたが、後世の人々の命を救うことになった。国土は今の時代だけのものではない。先人の取り組みに感謝しつつ、次の時代に強靱な国土を残し、さらなる発展を託す視点も忘れてはならない。
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就任直後から精力的に被災地を視察している赤羽一嘉国土交通大臣は「元のとおりに戻すだけでは本当の意味での防災にならない。これまでの安全基準では対応できない箇所もたくさんある」とし、根本的な防災・減災対策の見直しが必要と話す。国土の強靱化を含めた防災・減災対策は待ったなしの状況にあり、それを担う「地域の守り手」である建設業の存在意義が、あらためて注目されている。
今回の災害でも発災直後から地域の建設業者を中心に昼夜を問わず応急対応に当たり、被災状況調査や排水作業、堆積物撤去、堤防復旧、道路啓開作業はもとより、ブルーシートや土のう袋の調達・提供などに尽力した。
改正品確法では、新たに災害対応の担い手の育成・確保、災害復旧工事等の迅速かつ円滑な実施のための体制整備を基本理念に位置付けた。人手不足が懸念される地域の建設業の足腰を強くしなければ理念は絵に描いた餅に終わる。国土の強靱化は「地域の守り手」の強靱化なくして成り立たないことを公共事業の発注者は再認識するべきだ。