
埼玉県内の自治体において、女性定着に向けて先進的に取り組んでいるのが戸田市だ。市では2019年に、女性が働きやすい環境を整えるため、県内で唯一となる補助金制度を創設した。運用開始後は問い合わせが相次いだ。19年度当初予算で500万円を確保していたが「午前中だけで予算分が埋まってしまった」(担当者)という。同年9月補正予算で500万円を追加し、年間で計19社が利用している。
20年度も引き続き、事業者募集を行っている。対象事業者は同市内に本社または事業所を置き、女性従業員を雇用しているか、女性の採用見込みがある中小企業。交付条件には、工事を市内事業者へ発注することなどを想定。補助金額は対象経費の3分の2で、上限金額100万円を設定した。
補助対象となる設備は女性用のトイレ、パウダールーム、更衣室、シャワー室、休憩室などの改修・増設など。男女共用のトイレは対象外としており、女性社員の定着に向けた熱意がうかがえる内容となっている。
女性の職場環境整備に特化した補助金は県内初めての取り組み。制度設計に携わる市の担当者は「全国でも前例が少ない。北九州市や秋田市を参考にどうにか作り上げた」と思い入れも強い。
一方で困難な場面にも直面、市外の関連会社に工事を発注したいという会社が現れた。市内業者への発注を念頭に置いていたため「申し訳ありませんでしたが、お断りさせていただきました」。想定外の事態を受けて、20年度の募集要項には「工事の施工(設計含む)については、自社及び関連会社以外の市内事業者に発注すること」との文言を加えた。
実際に補助金を利用した企業からの声を受けて「評判が良く、ホッとしている」との印象を抱いており「男性は着替えることに気を使わないが、女性はかなり気にしているというのを改めて実感した」と話す。
少子高齢化に伴う人口減少の進行に合わせ、働き手も同時に減少していくのは現実だ。女性が働く環境を整えることで、仕事への定着を図る取り組みは不可欠。建設業界においても、女性の採用促進と並行して考えるべきテーマの一つといえるだろう。戸田市のように独自の取り組みを行う自治体の増加が期待される。