建設投資は国内の社会経済活動や市場動向等に与える影響が極めて大きい。新型コロナウイルスの感染拡大が今後の国内建設投資にどのような影響を及ぼすのかは現時点で不透明。だが近未来を占う上で参考になるのが建設経済研究所と経済調査会が5月に公表した「建設経済モデルによる建設投資の見通し」(2020年5月版)だ。この中で20年度の建設投資は前年度比1・7%減の60兆7500億円と予測。建設投資が前年度比で減少するのは6年ぶりで、本年1月時点の推計から大幅に下方修正した。
要因としては、東京オリンピック関係の投資の一巡があるものの、昨年度の消費増税に伴う駆け込み需要の反動減を含めた民間住宅投資等の落ち込みが大きい。19年度の住宅着工戸数は前年度比7・3%減の88・4万戸で、14年度以来の90万戸割れとなった。20年度は同比6・6%減の82・6万戸を見込む。足元でも4月の持家の着工戸数は1960年以来の低水準を記録した。昨年4月の着工が好調だったことがあるとはいえ、一部のハウスメーカーが新型コロナの影響から着工を休止する対策などを行ったことが関係したとみられる。緊急事態宣言下では、ほとんど営業活動ができておらず、3~6カ月後に着工遅れの影響が出るとの見方もある。

野村総合研究所では新型コロナの影響を加味した20年度の新設住宅着工戸数が73万戸、21年度は74万戸となり、いずれもリーマン・ショック時の水準を下回るという厳しい予測を出した。実際に08年のリーマン・ショック後、09年度の民間投資は大幅に落ち込み、10年度も劇的には回復していない。経済や金融システムを取り巻く環境が異なるため単純比較はできないが当時の二の舞にならないよう思い切った経済対策が必要だろう。
国内の建設工事では、新型コロナの感染拡大に伴い現場を一時中止した影響は限定的であり、一定の手持ち工事量は確保されている。ただ、特に地方の建設業者は今後の公共事業費が減らされるのではないかという危機感があり、先行きに対する不安は尽きない。民間の設備投資動向の分析は難しいが、従来の中長期的な投資計画を見直す企業が出てくることは十分にあり得る。
実体経済が回復するまでは、国際的にも景気を下支えする公共投資への期待が高い。IMF(国際通貨基金)は、長期にわたる低金利環境が「成長の押し上げのために全世界的に質の高い公共投資を促す好機」とする政策提言を行った。OECD(経済協力開発機構)の中間経済評価でも「将来を見据えると、(新型コロナに伴う)低成長の見通しは、多くの国々において需要を支えるとともに、中期的な生活水準を向上させるためのより強力な公共投資の必要性を高める」とされている。
投資マインドの冷え込みを回避し、「全国津々浦々の経済の好循環を取り戻す」(赤羽一嘉国土交通大臣)ためにも、生産性向上や民間投資の誘発に直結する社会資本への重点的な投資が、今こそ求められる。