◎新型コロナウイルスの感染拡大
2020年は猛威を振るった新型コロナウイルス感染症を抜きに語ることはできない。公共事業の執行に大きな影響は見られなかったものの、国内経済の冷え込みに伴う民間建設投資の落ち込みが出ており、今後は早期の景気回復と、それを下支えする公共投資の確保、円滑な執行が建設業界の行方を左右することになる。その一方で社会全体でデジタル化推進の機運が高まり、建設業界でも非接触・リモート化の代表例として遠隔臨場の導入が進んだ。来年はさらなる定着とともに、地方自治体発注案件への普及に加え、遠隔地における通信環境の早期整備が求められる。
◎首相交代で9月に菅内閣が発足
9月に発足した菅内閣は、防災対策やデジタル庁の設立、グリーン社会の実現などに取り組む方針を掲げた。自然災害が相次ぐ中で防災・減災、国土強靱化は「引き続き大きな課題」と言及し、省庁、自治体、官民の垣根を越えて「災害の状況を見ながら国土強靱化に取り組み、災害に屈しない国土づくりを進める」とした。また「各省庁や自治体の縦割りを打破し、行政のデジタル化を進める。今後5年で自治体のシステムの統一・標準化を行う」とした上で、改革を強力に実行するための司令塔となるデジタル庁を設立することも表明。行政への申請などにおける押印の原則廃止も打ち出した。さらに50年までに日本では「温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」と宣言するなど、新たな動きが始まった。
◎7月豪雨で各地に被害発生
毎年のように大規模な自然災害が発生する中、今年は7月の豪雨災害により九州を中心として全国各地で甚大な被害が生じた。特に熊本県の球磨川流域の被害は深刻で、抜本的な治水対策を図るため熊本県知事が現行の貯留型「川辺川ダム計画」を廃止して「新たな流水型のダム」を整備する意向を表明、赤羽大臣へ検討を要望した。7月豪雨に先立ち、国交省は大臣プロジェクトとして「総力戦で挑む防災・減災プロジェクト」をまとめ、特に流域全体を俯瞰した中長期的な「流域治水」対策の実施にかじを切った。現在、各地で検討が進んでおり、来年度以降の早期計画実現が期待される。
◎国土強靱化へ新たな「5か年加速化対策」が決定
本年度が最終年となる「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」は、新たに「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」として15兆円の事業規模で21年度から5年間で123の対策を進めることが決定した。今回から新たにインフラの老朽化やデジタル化対策も対象に拡充されており、国土強靱化等に弾みが付くことになった。初年度の事業費は20年度第3次補正予算案に盛り込まれたため、1月以降、まずは早期の補正予算の成立とともに、21年度当初予算を含めた「15カ月予算」の円滑な執行に備える必要がある。
◎「工期に関する基準」を作成、勧告
改正建設業法のうち、著しく短い工期の禁止や監理技術者の専任義務の緩和、下請負人の主任技術者の配置が免除される特定専門工事の規定など、注目の改正内容が10月から施行された。また改正法の一部施行に合わせて▽建設業許可事務ガイドライン▽建設業者の不正行為等に対する監督処分の基準▽建設業法令遵守ガイドライン▽監理技術者制度運用マニュアル―なども改正された。7月には中央建設業審議会が適正な工期による建設工事の請負契約締結を促し、働き方改革を促進するため「工期に関する基準」を作成。公共発注者や建設業団体などに実施を勧告しており、官民の総力を挙げた担い手確保・育成の取り組みは、新たな段階に入った。
◎CCUSは料金体系を見直し
建設キャリアアップシステム(CCUS)は、技能者・事業者の登録数、就業履歴蓄積数等が想定を大きく下回り、赤字が膨らむ現状の収支を改善するため、10月から新料金体系を導入するという大きな転換点を迎えた。赤羽一嘉国土交通大臣も「なぜ登録が進まないのか、現場の声に真摯に耳を傾けて、さらなる普及促進に向けて取り組みを深化させていきたい」と危機感を示しており、今後はメリットを明確に打ち出しながら、各登録数やカードタッチ数を増やすとともに、地方自治体発注案件を含めた公共工事での導入拡大が必要となっている。
◎全建は奥村氏が新会長に
建設業関係団体の主な会長人事では、全国建設業協会の新会長に奥村太加典氏、全国建設産業団体連合会の新会長に岡野益巳氏、東京建設業協会の新会長に今井雅則氏が就任。今井氏は建設業労働災害防止協会の
新会長にも就いた。また、全国土木施工管理技士会連合会の新会長に奥野明彦氏、東京土木施工管理技士会の新会長に寺田光宏氏、日本建設機械工業会の新会長に数見保暢氏、セメント協会の新会長に小野直樹氏、日本建材・住宅設備産業協会の新会長に億田正則氏、日本プロジェクト産業協議会の新会長に進藤考生氏、日本コンストラクション・マネジメント協会の新会長に川原秀仁氏、日本建築士事務所協会連合会の新会長に児玉耕二氏、土木学会の新会長には家田仁氏が就任している。
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来年は丑年。「一歩一歩着実に物事を進める年」と言われている。新技術の導入をはじめとする新たな取り組みの採用は不可欠であるが、早急に進めるのではなく、一つ一つの施策を着実かつ丁寧に推進していくことが必要となりそうだ。