見たもん勝ち ~建設業応援団~

【特別寄稿】 佐藤直良氏/現場をより大事に/コロナ禍で将来の展望を描く

2020/12/15特集企画/PR

建設メール

 新型コロナウイルスの影響で働き方が大きく変わろうとしています。このような時こそ建設業界では、現場の重要性についてあらためて考えることが必要になっています。緊急事態宣言発令後、5月の連休を中心とした期間、多くの現場が止まりましたが、その後ほぼ正常の状態に戻りました。一方、この間、事務職を中心としてテレワークが一気に進み、今現在でも継続している会社も多くあると思われます。同じ組織に属している社員に対し、会社として「現場」と「内業」のバランスを取る必要が出てきます。週休二日に対する土木と建築の現場職員への対応と相まって、難しい局面になっていると感じています。
 しかしながら、将来へ向けて肝要なのは現場を大事にする気持ちをより強く持つことです。そして今こそ現場で働いている人々により報いるため、報酬のみならず総合的視点に立ったさらなる具体的な対応が必要な時だと言えるでしょう。「ものづくり」から「ことづくり」への転換が叫ばれていますが、どんなに思想が変わっても、現場での「ものづくり」は決して無くなることはありません。
 さらに、コロナ禍をきっかけとして、デジタル化の推進など、現場の仕事でもより効率性を求める考え方が一層広まる風潮があります。
 その際、大事なのは手段の追求のみに邁進するのではなく、仕事の目的を見失わないことです。過去、他産業特に金融関係では、会社合併が数多く行われました。その際、合併のメリットとしてシステム統合を最優先させ、仕事のやり方の改善が後回しで合併の効果が十分発揮されていないと嘆く、経営者の話もありました。
 建設に携わる発注者、設計者、施工者等々、全てのステークホルダーの目的は、「良いものを生み出し、それを良い状態で長く機能を発揮させること」です。また調達にあたっては「良いものを、適正な価格で、タイムリーに社会に供給すること」も求められています。
 国際的にみてもその動きは一層強まっています。アセットマネジメントの基準を規定したISO55000シリーズが定まり、既に我が国でもJIS化されています。近年その具体の手段として19650シリーズが次々と決定されています。これは、BIM(3次元システム)を活用して構築された、資産(インフラ、建築物等)のライフサイクル全体にわたる情報管理に関する規格です。いずれ本稿においてもその内容について紹介する機会があろうかと思いますが、建築・土木の世界問わず、ICTを活用しながら計画-設計-施工-維持管理という一連を3次元でつないでいく流れが明確になりました。但し大事なのは、BIMは手段の一つであり、目的は資産管理上重要となる情報管理です。この為、資産管理者の責務が今以上に重要となってきます。必然的に調達の世界でも、設計者、施工者の役割も変わらざるを得ないと思われます。これらを進める際、筆者のかねてからの持論である、3次元のXYZの世界のみならずT(時間)、経済、品質、環境、安全まで含めたトータルの視点がより重要視されることは間違いありません。
 今後、我が国は単にISO19650シリーズに沿うシステムのみを導入するのではなく、そこに我が国独自の、いままで培ってきた仕事の進め方の工夫なり、誇れる強みを付加することが国際競争力維持等の観点からも必要だと思われます。
 さらに言えば、時々の社会的要請に応え改良が加えられてきた調達制度を、原点に立ち返り点検する良い機会とも成り得ます。加えて建設業にとっては、ICTの活用等により、より品質等に力を注ぐことが期待されます。そして、その施工の強みを活かして、周辺領域までその役割を拡大する大いなるチャンスだとも考えられます。
 また、設計に携わる方々にとっては、施工のみならず一番大事な目的物の維持管理分野まで見通した上で、例えば(仮称)性能維持管理設計(目的物の完成後の性能の維持にまで視野を拡げた新たな設計の世界)の手法確立へ向けた動きが強まるはずです。
 「困っている課題と別の課題を結びつけると、解決策が見つかり易い」、とも言われています。このコロナ禍そして国内的課題さらに国際的な潮流など多くの課題をどう乗り切り、将来の展望を描くか、ここ数年が大事な期間となるはずです。
 ※寄稿者・佐藤直良氏…東京工業大学非常勤講師 (元国土交通省事務次官)

 

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