見たもん勝ち ～建設業応援団～
【作文コンクール・不動産・建設経済局長賞】 「母の背中と私たちの未来」木村友梨香氏（新潟藤田組・新潟県）
2021/11/02建設時事
建設メール
私は、母が嫌いだった。建築関係の仕事に就きたいと思ったのは、小学生の時。建設業を経営している母を見て育った私は、尊敬しつつも、いつも仕事で忙しく相手をしてくれない母のことが好きになれなかった。
小学校の帰り、母が運転する車の後部座席でぼーっと外を眺めていると「ここはお母さんが設計した建物だよ。」と苦労話も交えつつ私に話してきた。正直、建築という存在に母を取られていた気分の私は、素直に「すごいね！」と言えなかった。だが、その頃から母に振り向いて欲しいという気持ちから、建築というものに興味を持ち始めていた。
母の側に居ることができる仕事場は私のお気に入りの場所で、働く母の姿を見ながら学校の宿題をし、仕事が終わるのを待つ、それが私のルーティーンだった。休日、祝日関係なく夜遅くまで書類や図面の山に必死に向き合い、その合間を縫って家事をこなす。
そんなある日、過労で倒れた母の姿を見て建設業の大変さを知った。母は経営者ということもあったが、家庭と仕事の両立を考えると女性が建設業で活躍できるのか、幼いながらに不安に思ったのを覚えている。「どうにか母を楽にさせてあげたい。」そこから真剣に建築と向き合おうと決心し、私の建築人生は始まった。
私は大学で建築分野を学び、今の会社に入社して2年目になる。建物を身近に触れ理解を深めたいという気持ちから、施工管理を行っている。
まず初めに、前述を踏まえた上で私には目標がある。「建設業のイメージを変え女性が働きやすい環境を作る」ことだ。
以前よりは働き方が改善されてきているとのことだが、特に施工管理は「きつい」「汚い」「危険」の 3K職場と言われており、建設業界へのマイナスイメージが人手不足を進行させている。更に、女性は男性に比べて体力もなく、又、結婚し家庭を持ったら時間にも制限されたりとハンデキャップがある。女性が距離を置くのも無理はない。私は、現場作業を行うにあたって男性が簡単にできることが私には難しい現実に無力さを感じることがあった。現場に出ることが恥ずかしくて、悔しくて隠れて泣きながら作業していたこともあった。そんな時、尊敬している上司の方から、「できないものはできない。できる人がやればいい。女性は男性が気付けない細かな気配りができるでしょ?お互い様だよ。」とアドバイスを下さり、背中を押され少し気持ちが楽になった。それと同時に女性がこの業界に必要とされていると実感でき嬉しくなった。
決して楽な仕事ではないけれど、私はこの仕事が好きだ。図面で見ていたものが立体的に立ち上がる喜び、何事にも臨機応変に対応できる先輩や職人さんのカッコよさ、それを身近に感じながら仕事ができる幸せ。覚えることが多い分、新しい知識が増え自分の成長を感じられる嬉しさ。今は、未熟で出来ないことの多さに心を折られる日々だが、周りに迷惑をかけながら必死に建築と向き合っている。
私は、女性が活躍できる職業であるということを知ってもらい、マイナスなイメージを払拭し建設業の魅力を伝えたい。その為にも、女性、男性お互いが働きやすい環境とはどういうことなのか、考えるだけで終わっていないか、実行に移せているのかを今一度、皆で真剣に見つめ直すべきだと思う。
実際に自身が建設業に携わったことで、改善してほしい点は多々見えてきているが、正直言いづらいことも沢山ある。だが、私たち女性は黙って我慢しているだけでいいのだろうか。思っているだけでは伝わらない、受け身の姿勢ではなく理解してもらう努力が必要だ。私ひとりでは変えられない。だから、お互い手を取り合って笑顔で働ける建設業界の未来を皆で作れたらと考える。
母に振り向いて欲しくて、母を救いたくて始めた建築も今では、どんなに辛いことがあったとしても嫌いになれないくらい夢中で仕方ない。いつか母を超えることが私の夢。
そして、私が母になった時、自分の子どもにこう言われたい。「母として、技術者としてどちらの姿も好きだ。」と。
