見たもん勝ち ～建設業応援団～
〈日々の栞〉 小さな仕事を積み重ねて
2024/04/04コラム
日々の栞
▼尊敬する恩師の公開講座があるというので母校に出向いた。テーマは古代末期から近代のヨーロッパ教会建築。「教会建築」と一口に言っても、教会堂そのものを示す「教会」、司教の椅子を意味する言葉「カテドラル」から採った「大聖堂」、集会所を意味する「バシリカ」など実は多岐にわたる。建築様式も、ビザンチン、ロマネスク、ゴシック…と歴史や地域とともに変遷してきた。講座では実に10カ国以上の教会建築が紹介された
▼その中の一つ、ストラスブール大聖堂は、ゴシック建築の傑作と名高い、巨大で荘厳な教会建築。一時期は世界で一番高いキリスト教建築であったその大聖堂は、中世の名もなき職人たちが百年以上にも渡って造りあげたものだという
▼1770年、法律を学ぶためにストラスブールへ留学した若きゲーテは、その大聖堂を見て、まるで森のようだと評した。ゴシック建築の特徴である林立する柱に木々を感じ、ステンドグラスから注ぐ光に木漏れ日を見たという
▼職人たちの祖先、ガリア人にとって、森そのものが神殿だった時代があった。その末裔（まつえい）である職人たちの手によって生み出された建築物に、ケルトの民の集合的無意識が表現されているということが、講義では語られた
▼名は刻まれずとも、われわれが社会で生きるために必要となる仕事はあまたある。一人一人の、実は小さく見える仕事の積み重ねが未来に残り、誰かを、未来のゲーテの心を動かすのだとしたら。われわれはもっと、仕事に誇りを持つべきなのかもしれない。ましてや、それが目に見えて形あるものをつくる仕事ならばなおさら。（群馬・MT）
