見たもん勝ち ～建設業応援団～
【提言】 ICT施工の現状と課題⑨（総括）／新3Kの現場実現へ／明確な見通し不可欠
2019/11/26特集企画／ＰＲ
建設メール
政府は2016年9月の未来投資会議で、第4次産業革命により建設現場の生産性を25年度までに2割向上させる目標を打ち出した。中心となるのは調査・設計から施工、維持管理に至る工程でのICTの全面的な活用で、国土交通省ではICT施工の工種拡大、新技術・新工法の導入などを加速させている。背景には将来の担い手不足への危機感があり、i－Constructionを通じて建設業に対する従来の3K（きつい・汚い・危険）のイメージを変え、全国の建設現場を新3K（給与・休暇・希望）の魅力あるものへ劇的に変えることを目指す。
国交省の調査ではICT施工を行った結果、起工測量から電子納品までの延べ作業時間は土工で約3割の縮減効果が出ている。また建設現場に必要な技術の習得時間の短縮、危険を伴う作業が減る安全対策の効果も期待される。生産性向上によって安定した休暇の取得が可能になれば若者や女性を含めた多様な人々が活躍し、技術者・技能者の処遇改善にもつながる。
だがICT施工の現状は厳しい。関東甲信越の建設業者からは県工事で対象となる発注がまだ少なく、市町村工事ではほぼ発注がないため、多額の投資に踏み切ることをためらう声が相次いだ。将来も安定的に対象工事が発注されなければ、費用対効果で割に合わないと考えるのは当然だろう。工事成績評定で加点する動きも出ているとはいえ、まだまだ課題は多い。
またICT施工を「人ごと」と考えている受発注者は少なくない。「自分たちには関係がない」「大手や建機レンタル向けの政策」と捉える向きもある。これはICT施工の効果を実感できないことが大きな理由と考えられるが、国交省幹部は「『習うより慣れろ』で、一度経験してもらえれば難しくはないことは分かってもらえるはず」と話す。 一方でICT施工に取り組む企業では生産性向上の効果を実感している例が目立つ。受注した工事で利益が出ることが分かれば、ICT施工に挑戦する企業も増えてくるはずだ。そのためには業界全体が将来の建設業のことを考え、今が変革の分岐点にあることを認識しなければならない。一部の企業や業界だけがもうかる仕組みでは駄目で、先進的な企業も後に続く企業も全体で建設現場のICT化に軸足を移す取り組みが求められる。
建設業に限らず少子高齢化が急速に進む日本では担い手の確保・育成が喫緊の課題。発注者も受注者がいなければ今後は工事を発注することができなくなる。改正品確法では情報通信技術の活用等を通じた生産性の向上が発注者・受注者の責務とされた。まずは発注者が将来のICT施工の明確な見通しやメリット、支援策を打ち出すことで、受注者の意識改革を促すことが必要不可欠だ。（おわり）
